まるで、縄で釣り上げられた野猪のごとき気分だった。
 
 三成は赤土に顔を擦りつけながら、尋常でない速さで「何か」に引き摺られていた。
 自分の身に何が起こっているのか、全く検討がつかない。
 

 藪の中にまで引き込まれ、突き刺さる枝葉に三成が固く目を瞑った刹那。

 その身体は、宙に投げ出されていた。
 地面から引き摺り上げられた三成は、右足首同様に、「何か」に両手足を拘束される。
 

「─────なっ・・・何だ、これは」

 
 身体の自由を奪ったものの正体を初めて捉え、三成は目を見張った。

 
 両手足に巻きついていたものは、得体の知れない軟体物だった。ぐにぐにと、意志を持っているかのように蠕動(ぜんどう)している。
 
 その元を目で追うと、すぐ背後に緑色をした巨大な木本があった。
 どうやら、この植物の蔦らしい。

 勿論、こんな気味の悪い木本は見たことも聞いたこともなかった。
 それでも、自分が何故捕らえられたのかぐらいは容易に想像がつく。


 ─────食虫植物、否、人喰い植物。


 三成は自分の血の気が引くのを感じた。
 ここ未開の南蛮の地なら、何が起こっても、何が生息していても、全く不思議ではない。

(早くどうにかしなければ・・・)

 三成は手にしていた嘉瑞招福を開き、手足を拘束している蔦を断ち斬ろうとする。
 が、強い力で引っ張られ、硬直している腕は少しも動く様子を見せない。まるで大の男数人に取り押さえられているかのようだ。
 
 あらん限りの力を込め、ぐい、と右腕を引いた刹那、伸びてきたもう一本の蔦によって嘉瑞招福が弾かれる。
 地面から己の身の丈一つ分ほどしか離れていないとは言え、手から落下した得物は、遠い眼下のように感じた。
 
 もはや、植物の餌になるのも時間の問題である。
 三成は心の内で舌打ちをし、今度は蔦を千切るつもりで両腕を勢いよく引く。
 

「ふぐっ・・・!!?」


 突如、三成の口からくぐもった声が上がる。
 先刻嘉瑞招福を弾いた蔦が、大人しくしろと言わんばかりに、口腔内に伸びてきたからだ。

 侵入してきた蔦は太さを変え、三成の口いっぱいの大きさにまで膨らんだ。
 ずぶり、と咽の奥まで蹂躙される。

「うっ・・・ぐうっ・・・」

 息が苦しい。蔦は大きさを変えてもなお、うねるような蠕動を続けていた。
 

(落ち着くのだ・・・)


 今、咥内にあるのは、ただの植物。
 そう分かっているのに。


 太さだけでなく、質量も、硬さも。それに似ている。
 意識せずとも、卑猥なことをされているような気分になりつつあった。

「ふう・・・ふくっ・・・」

 口の端から、溢れた唾液が流れる。
 視界がぼやけ、目が涙で潤んでいるのが分かった。 
 
 あまりの息苦しさに三成が身を捩じらせると、どこからともなく新たな蔦が伸びてくる。
 嫌な気配に動きを止めたのも束の間。

 身体に絡みつく蔦が、着物の合わせ目を押し広げた。
 ぬるぬると滑るように、白い肌を撫で上げられる。
 少し膨らんだ先端部分から、薄緑の粘液が出ているようだった。
 
 これ以上何をされるのか、と三成は身体を強張らせる。
 と、何かを探るような動きから一転。
  
「ふうっ・・・んっ・・・!!!」

 蔦の先端が割れ、胸の突起物を強く吸われる。三成の身体がびくりと跳ねた。
 ぢゅぢゅっ、と濡れた卑猥な音が上がる。

 これはただの植物だ、と何度も自分に言い聞かせてみても。
 蔦で蹂躙されている口から洩れた呻きは、確かに甘さを帯びていた。
 
 両の突起を同時に弄られ、三成の背中がしなる。
 宙釣りにされていては、踏ん張って快感に耐えることすらもできない。
 
(早く・・・何とか・・・・・)

 しかし、思うように思考が働いてくれず、三成の身体から力が抜けていく。
 なすがまま、快感に身を委ねることしかできなかった。





−弐−