「なぬかのよの祀り」、もとい「星祭」は、魏の陣中でも気に入られたようだった。
 
 皆思い思いに竹札に願いを綴り、目を輝かせながら笹枝にそれを吊るしていた。
 俗習を楽しむその様は、史書に名を残す猛将たちとは思えないほどであったが。


 棚機つ女たなばたつめに捧げる宴が終わり、皆が寝静まった明朝。

 平生よりも濃い朝靄が立ち込める中、三成と曹丕は幕舎の側を流れる河へと来ていた。
 二人の手には、昨晩の葉竹が握られている。身の丈二倍は優に越えるほどの竿は、ずしりと重い。


「付き合わせて悪かったな」

 先導して葉竹を運ぶ三成が、背後に言葉を投げかける。

「いや、構わんが・・・下の者にでも任せれば良かったものを」

 半ば呆れたような曹丕の返答に、三成はそうはいかぬ、と首を振る。

「元を辿れば、俺が貴様の奥方に話したせいだろう。こういった儀礼は、当人が終わらせるべきだ」

「面白味のない乞巧奠きこうでんよりは退屈せぬ」

 三成の脳裏に、星祭の風習を知った甄姫の嬉々とした表情がよみがえった。
 正直、面倒なことになった、と心の隅で呟いたなんてことは死んでも言えないが。

 そんなやりとりを交わしながら、二人は河岸へと降りる。
 浅瀬に少しだけ足を浸すと、滔々と流れる水の中へ葉竹を放した。
 
 竹の身は流れに乗り、浮き沈みを繰り返しながらさやさやと葉を揺らす。
 纏っていた笹の香りも同時に消え、三成と曹丕は得も言えぬ気持ちになっていた。
 
 彷彿とさせられたのは、麻布で巻かれたかつての同志の姿。
 
 「棚機送り」は、死者を弔い流すのに何処か似ている。
 二人はそう思った。


「─────あの竹は、どこへ流れつくのだろうな」


 下流へと運ばれて行く葉竹を眺めながら、三成は独白のように呟いた。
 
 皆の願いが託された、その身。
 死者が往き着く先と、同じところを辿るのだろうか。


「・・・・・織女しょくじょのもとに、とでも言った方が良いのか」

「フ・・・貴様も随分と俗人らしいことを言うのだな」

「海の底、と言いきってしまうよりは興があるだろう」

 三成に笑われ、そもそも貴様が問うてきたのだろう、とでも言いたげな視線を曹丕は投げかける。


「─────そうだ、な」


 霞の中へと消えていく葉竹を見送り、三成は胸の内で祈った。

 どうか、と。



「・・・それで、三成。お前は何を願ったのだ」

 実際、昨晩短冊に綴ったのは、豊臣家の安寧だった。
 
 だが、今、この河口の果てに祈ったものは─────



「貴様も答えるのならば、教えてやらんこともない」
 
  
 






 






今回は間に合って良かった!
・・・え、間に合ってない?(7月9日現在)

丁度、七夕の日にあしこむぎさんとスカイプでお話してたんです。
半ば冗談であしこさんから
「七夕ネタ書いてよ」と言われたのを真に受けまして。
ネタ切れだった私には神のお告げに等しい!←
ということで書かせていただきました。

さて、シリアス以外のを書くはずだったんですが・・・
どうしてこうも暗い話になるんでしょう!
でも、みなさんもそうだと思うんですが
織姫と牽牛は、三成と曹丕に重なるんですよね。
七夕・・・切ないです。

でも「このお話は丕三です」とすら言えない・・・。
ということで、今からエロに着手します(←おい