「─────殿、起きてますか?」
「・・・・・左近・・か・・・」
ゆっくりと目を開けながら、三成は襖越しに掠れた声で返答した。
どうやらあの後、気を失ってしまったらしい。
いつの間にか自身の私室に運ばれ、仰向けに寝かされていた。きちんと夜具も掛けられている。
もう朝か、と横たわったまま問うと、呆れたような溜め息が返ってきた。
「何言ってるんですか、殿。もう昼時ですよ?昼餉の支度も終わってるんですからね」
大きく目を見開き、三成は三度ほど瞬いた。
「・・・・・曹・・・丕、は・・・・・」
「・・・『そうひ』・・・一体誰ですか、殿」
震える声で発したひとり言のような言葉に、左近が怪訝そうな顔をする。
(・・・・・そうか・・・やはり・・・)
「─────すまない。仕度をするから、席を外してくれ」
そう襖の向こうに投げかけると、すぐに来て下さいよ、という声が返ってきて、左近が寝室の手前から退出したのが分かった。
それからしばらく、三成は死んだ様に動かなかった。
(・・・・・だるい)
落馬して全身を強打した時のように、身体中が痛む。
それは昨晩の行為だけが要因ではなく、どうやら心の臓から広まっているようで。
ふっ、と乾いた笑いを漏らし、三成は腰を庇いながら身を起こした。
と、枕元に何かが置いてあるのが目に入る。
(─────あれは・・・・・)
恐る恐る手を伸ばし、そっと、それを手に取ってみた。
後方で一つに束ねているはずの、艶やかで長い、曹丕のひと房の頭髪。
中心が白の檀紙で巻かれている。ばっさりと、刃物で切った跡があった。
(これじゃあまるで、遺髪だろう・・・)
あいつは一体、何を考えているんだ。
こんなに美しい髪を台無しにしてしまうなど・・・
全く、ただの、
馬鹿だ。
悪態をつくも、頬を伝う涙を止める術は生憎見つからず、やがてそれは嗚咽へと変わっていった。