やけに寒い、十二月のはじまり。
吐く息は白く凍結し、ポケットにつっこんだ両手はかじかんで感覚がない。
すっかり霜焼けしてしまった耳に届くのは、軽やかな鈴の音色。
「ちょっと気が早いんじゃねーの?」
商店街の中心に設置された巨大なクリスマスツリーを眺めながら、俺は半ば呆れて呟いた。
まだ十二月の頭だというのに、どこの店もクリスマスのオーナメントで飾り立てている。その上、延々と流れるのは聴きなれた陽気なメロディー。
町はクリスマスムード一色だった。
「でも、いいんじゃないか?俺はこういう雰囲気、結構好きだけど」
「べ、別に誰も悪いなんて言ってねーだろ」
正直、俺だってこういうお祭りムードは嫌いじゃない。
現に今だって、クリスマスは何をして過ごそうとか、どんなご馳走を作ろうとか、そんなことばかり考えている。
それに、プレゼントだって─────
「そうだ、プレゼント!」
クリスマスに浮足立っている場合じゃない。今日一番の目的を忘れるところだった。
三日前、十二月三日は兄貴の誕生日。
本当はうまい料理でも作って、それをプレゼントにしようかと思っていたんだが・・・
急患が入ったとかで、結局兄貴が帰ってきたのは日付が変わってから。
その後は・・・・・まあ、色々あったんだ、気にするな。
とにかく、誕生日当日はちゃんとしたお祝いが出来ずじまいだったのが気になって。
せめて欲しいものでもプレゼントしてやろうと、兄貴の休日を利用してこうして町に出てきたってわけ。
「プレゼント、か」
口元に手を当て、兄貴は考える素振りを見せる。
「何か欲しいもの、あるか?」
「そうだな─────俺は明が一緒にいてくれれば、それで十分だからな・・・」
「はあ!?」
真面目な顔でさらりと言われたもんだから、俺は思わず変な声を上げてしまった。
「なっ、何言ってんだよ・・・」
「今は、いいかもしれない。でも」
不意に、目を伏せた兄貴の顔が翳る。
「こうやって、俺は年をとっていく。そのうち、三十路にもなるんだぞ。髪だって薄くなるかもしれない」
そう言う兄貴の声音からは、不安が伝わってきた。
もしかしたら、兄貴は誕生日を迎える度に、そんなふうに思ってたのかもしれない。
「あほ・・・・・俺だって、年とるに決まってんだろ」
「明はまだ若いだろ」
「じゃあ、兄貴は俺がハゲたらどーすんだよ」
「─────そんなこと、関係ない」
「俺も、同じだっての。兄貴がハゲだろうと何だろうと、俺は、兄貴の側から離れたりしねーよ」
「明・・・・・」
嬉しそうに笑みを浮かべる兄貴と目が合い、今更になって羞恥心が込み上げてくる。
「で・・・プレゼントは?」
「─────明がずっと一緒にいてくれるなら、焦らなくてもいいんだろ」
す、と手が差し伸ばされる。
「今日一日かけて、ゆっくり考えることにするよ」
そう言ってほほ笑む兄貴は、本当に幸せそうな表情で。
見てるこっちまでが泣きそうになってしまった。
「ここ・・・街中だっての」
「今夜は雪が降るみたいだから、寒くなるぞ」
口では虚勢をはりながらも、俺は、兄貴の手をとった。
ぎゅっと握ってきた兄貴の手は、俺と同じで冷え切ってはいたけど。
お互いの熱で、融かされるような気がした。
明とお揃いのものがいいな、とか、そんな話をしながらウィンドーショッピングを続ける。
たとえ雪が降ったとしても、この手さえ離さなければ、きっと、寒さなんて感じない。
そう、思えるから。
ゆっくり、兄貴と歩いていよう。
やけに温かい、十二月のはじまり。